対談その2
 
あ ようこそ「怖い話をしよう」へ。

ここでは「都市伝説」と「現代妖怪」について熱く語りたいと思います。

 
玲 ウワサ話大好き。

語ることもとっても得意な史都玲沙(しとれいさ)です。何か最初はテキトーに2人だけで語ってきた都市伝説などですが、いつのまにかこんな風にキッチリやる事になってしまいましたねぇ。SF大会で発表なんかしたせいもあるんですが。

 
あ 99年第38回SF大会「やねこん(愛称)」in 白馬で、「怖い話をしよう」という企画発表をしました。そのために前年からアンケートをとったりレジュメ本を作ったり、なんか妙〜にまじめにとりくむ事になってしまったんですね。ホラ、根がマジメだから私たち。(アンケートは後にありますんで、やってない方はやって下さると嬉しいです。)

玲 今、そーいうものはやりですよね、とかも言われたけど、 はやってるワリにキッチリしたものがそれほどないなぁ。と思った事もまじめにやってる一因です。半分くらいかじった所でそんなあやしげな話と鼻で笑う様な人にも、もう少しちゃんとわかってもらいたいという気分もある。
でもさ、今はやりだって言われたけど都市伝説に関しては、結構前からずーっとありますよね。最近、言葉自体が先行して知られて、何やら最初に持っていた意味と間違って使われてるよーな気がしないでもないですが。
それで私達は「都市伝説」と「現代妖怪」の2つに名前を分けてみた、という所もあるんですけどね。

 
あ 「都市伝説」と言う言葉自体はたぶん「消えるヒッチハイカー」(J・Hブルンヴァン著)というアメリカの本が翻訳出版された頃に、メジャーになったんだと思うんだけど、それは1988年発行なんですよ。で、原典では“Urban Legends”と書かれている英語の訳ですね。他にも現代伝説とかアーバンフォークロアとか呼ばれていますが、ま、早い話が現代に生きるあやしげな噂話、しかも「本当のこと」として語りつがれているもの、です。

 
玲 更に色々な所でたくさん語られ、類似した話、 細部が変型した話がたくさんあると言うのも特徴ですね。

 
あ 例を見てもらうとわかるように、多くの人が、「ああ、あのミミズバーガーの話ね」と思うわけです。でも、「私の聞いたのはネコ肉バーガーだった」とか「犬肉だった」とかバリエーションが豊富であると。

 
玲 マクドナルドだったりとか、ロッテリアだったりとか。 店の裏に猫の首が積み上げてあったとか、裏に流れる川が血で真っ赤になっていたとか。誰にも言わないで下さい、と言われて3万円もらった、等々色々細かい話がくっついてくるのも特徴です。
そして、やっぱり本当の事として語られるのが大切な所なんだよね。でも、決して本当に体験した本人には出会えない、と。この本人って所が大切だよねー。私の友達が体験しました。と言いに来る人はいたけど、私がその本人ですって人に会った事ないですものね。

 
あ 絶対本当の話なんです!とか外食産業の常識です! とか言う人はいるけど、私はミミズバーガーをMCで食べて3万円もらったと言う大人(大人に限る!子供は本質的にウソツキだからな。このウソツキは起きていても夢を見ているって意味もあるのよ。本人にはウソをついている自覚がない。本当のウソツキは大人でもそうだけど、自分のウソを信じてるものだからね。ウソとわかってウソをついているのは単なるホラ吹きか、詐欺師である)はいないんです。(さすがにそこまでダボラは、いかなウソツキの大人でも信じられないから)
もちろん「日本ダルマさん」本人や「フジツボが生えた人」にも会ったことはございません。

 
玲 本人が大切ですねぇ。友達程度ではいけません。
でも、そういう事言ってるとね、別の人から「でも、嘘かどうかわからない事だってあるじゃないですか。」と言われる事もあるんですよ。でもねぇ、そんな事はどーだっていいんです。要するに『本当の事として語られ』ていればいいんです。本当の話だろうが、嘘話だろうが、本当にあった話なんだけどね、と言って語られていれば。
ただー  マジに本当に会ったという人には行き当たらないけどね。信じるのは勝手だし、私にとってはどーでもいいけど、でも作り話ですよ。良く出来た作り話。ただね、逆に「そんなものは所詮作り話。子供の戯言だ」とか言った態度も困るんですけどね。

 
あ あ、それそれ。そうなんですよ。「子供」ってね。「学校」とか出てきちゃうとこれはまたちょっと違ってくる。
「都市伝説」の語り手は基本的に「オトナ」です。「学校」から生まれた話でも、「子供の戯言」でもないんですね。最近の方でも言ったように、我々はいわゆる「学校の怪談」に出てくる様なものを「現代妖怪」と呼んで区別しています。
「都市伝説」は「お話、ストーリィ」に主眼があるんですよ。だから、口裂け女」とか「花子さん」の様に「お話」として成立していないものは「都市伝説」には入らないだろうと。そして、子供は上手に「お話」を作ると言った事は、やっぱり出来ないんですね。「語る」のは「大人」。「子供」はその「話」の中からエッセンスを取り出して「妖怪」を作り出していくって言うパターンです。

 
玲 そうそう、子供の作る話なんて、本当――――――――――に戯言ですよ。スジもイミも通ってませんて。もしも、子供の中で語られている。もしくは、私は子供の頃に友達から聞いたと言う場合。確実に大人から話が落ちてます。先生から聞いた、親から聞いた、など。
そういう訳で人面犬だの口裂け女だのと言う話はちょっと区別したいと思ってるんですよ。都市伝説というものは、基本的に何かに対する警告とか、教訓とか差別意識の様なものが含まれ、語られるものなんです。人面犬にメーターが付いている、なんて話はやっぱり根底に流れる意識そのものが違いますよね。
ただ、この現代妖怪の中にある、大変有名な口裂け女の話。これは、口裂け女と言う名前がついた時点でやはり現代妖怪だと思うし、ポマードと言うと逃げるとか、べっこうアメが好きだとか言う話になっちゃうと、上記の人面犬の話と同類だと思うんですが、これに流れる一種の差別意識の様なものが何やら都市伝説と現代妖怪を少しまたがっているのも確かなんです。
特に、お話の初期の頃のバージョンとそれから、口裂け女と言う名前がつく前の口裂け女の話の原型じゃないか、と思われる話。これは、都市伝説だろうと言うものがあるんですよね。SF大会の時に仕入れたんですが。

 
あ プレ口裂け女の話と、仮に呼んでいます。
これには実に様々なバリエーションがあり、基本的に語り手は「大人」です。では、ここで私達が「口裂け女」のプロトタイプと考えているものを2例紹介しました。

 
あ この2例に共通しているのは「あやしい女(みにくい)」「精神病院」「それによって危害を加えられる(かもしれない)」と言う要素です。ほ〜ら、いかにこの話が差別意識に満ち満ちたものであるか、明解にわかりますね。
実際には、ラジオというメディアが「精神病院から逃げ出した女が」なんて放送する事は考えられないので、これが、ウソである事がわかります。ドラマでも、あり得ないでしょう。(放送、出版業界のいわゆる差別用語に関する過剰なまでの自粛というものは、少しでもそれに関わった者にとっては、あきれるばかりの現実です)

 
玲 もしも、この話と似たような話を知ってる人がいたら 教えて下さい。同じです、と思っても場所が違ったり、持ってるものが包丁だったり、鎌だったり、少しでも違っていたらよろしく。ほんとーにささいなバリエーションの違いでも結構です。
いつ頃(何年前とか)どこで聞いたか(地名)なども入れてくれると、なおナイスです。
あ〜、あと口が裂けてるほうの話の中には、この例では先天的な、になってますが美容整形に失敗して、精神病院に入り、そこから逃げ出して、と言うバリエーションもあるんです。そうすると、そこには「整形なんてするものじゃない」と言う教訓も含まれたりする訳でしょう?
差別意識と教訓と。とっても都市伝説の要をおさえていますよね。

 
あ この辺りの噂話から立ち上がってきたものが、
現代妖怪としての「口裂け女」ではないかいと私達は考えている訳です。「口裂け女」と言う名を与えられた事によって「彼女」は「学校の周りをうろつき小学生を追いかけ回すモノ」になっていくんです。

 
玲 そこで初めて子供に話が落ちるんですよね。
何か恐い女がいるらしい、というより「口裂け女が来る」という話の方が子供達にはわかりやすい。
何か民俗学の本に口裂け女とは母親を怖いものと感じている子供達の心理と昔からある山婆伝説の様なものが合体して、口裂け女の形をとったのではないか、とか書いてあったけど、それはちょっと違う様な気がします。

 
あ まず、「大人の噂話」があって、
そこから子供にとってわかりやすいエッセンスが取り出されて、「子供の噂話」になっていく。その過程で名前が立ち上がってくると。
子供は昔の民俗にはあまりくわしくないですから、むしろそういうのが混じってくるのはオトナの段階だと私は思います。母親云々も、むしろ逆でこの「女」は差別される外者(ヨソモノ)なんだと思うんですよね。民俗学的に言うなら来訪者であると。
得体の知れないものが危害を加えに来る」と言う根源的な恐怖に根ざすものだからこそ、これだけ劇的に全国に拡がったんじゃないかと思うし、もとの話にあった「先天的に口が裂けている女」という差別意識や、整形手術に対する教訓的な差別意識も、この話をひろめるにあたって大きな意味をもっていたんじゃないかと。

 
玲 母親は、本来自分に帰属するもの、自分のテリトリーに属するもの、ですよね。それが怖いという話ではないと、そんな怖いものは本来内側には無いもので気持ち悪い、訳のわからないものは本来外側にいるべきものだと。
キチガイは本来、ワクを作ってその外側にいるものだ、と言う発想ですか。

 
あ そうですね。だからその「キチガイが病院を脱走して来ている。怖い」という展開でしょう。母親だったら、キチガイって言うのはないですよ。
大体「キチガイ」って言うわかりやすい差別用語をなくしてしまったから、見えにくくなっちゃたんじゃないかとさえ、私は思いますね。
「キチガイは怖い」これって、誰でも「ウン」っていう事柄じゃないですか。
事の正否や良し悪しとは別個の所で、実は厳然としてそう言う意識はあると。池袋通り魔やライフスペースのミイラ息子なんか、精神病か否かは別として、やっぱり「キチガイ」でしょう?

 
玲 連呼しとりますね。キチガイを。使えないからなぁ、普段。
そーですねぇ、母親から来たんだったら、口裂け女のバリエーションのひとつである、整形手術の失敗で気が狂ってとか言う話がこれほど広まる筈ない様な気がしますねぇ。
キチガイ(精神病者の事ではない。人々が俗に考える、キチガイと言うモノである)は本来線引きされた向こう側にいるものであり(または、そうでありたいと思うものであり)その線を押し破って自分の内側に侵入してくる事が「怖い」んですよね。本当は、そんな線引きされた向こうなんてないんですが、それだと自分と関係ないものにならない。
やっぱりキチガイは自分と関係ないものにしときたい(自分はキチガイになる訳ないと思いたい)と言う思想が底に流れていますね。

 
あ いやー、一般人の意識としては、自分は絶対キチガイじゃないですよ。自分が信じてる事は必ず常識ですから。その外側にいるものが、キチガイ。
本来精神病とはぜんぜん=じゃありません。でも、精神病院とは=だったりするんですね。意識の中では。だから「精神病院を建てる」となると大反対でしょう。普通の病院だったら、そうでもない。本当は、病院の方が伝染る病気の人も来るから危険なんですけどね。「都市伝説」の「怖い話」の中にはだから「気が狂う」って言うシチュエーション多いですよ。

 
玲 気が狂うシチュエーションってどんなのがあったかなぁ。
あっ、手足を切られて東南アジアの奥地に売り飛ばされたダルマ女の話とかそうか? 家族が見つけた時にはおかしくなっていた、と言うヤツとか。前回の「怖い話をしよう」にイモ娘って載ってたけどあれ、イモムシ娘ですよねぇ。しかし、女が多いなぁ、そーいうの。

 
あ アメリカの都市伝説だと「臓器を盗られる男の話」なんかがあるけど、「口裂け女」に相当するものは「カギ手の男」ですよね。女じゃなくて男。

 
玲 鉤手の男の話は口裂け女よりもより教訓的でしてね、
ティーンエージャーの行動をいましめるみたいな感じがつきまとってますよね。
でも、なんで日本だと女なんでしょうねぇ? 伝統入ってる?幽霊は昔から日本では女と決まっていたし。
臓器を盗られる男の話って言うのはアレですよね。ある男が旅行だか主張だがで、遠くへ出かけて、出先で… え〜と、良く覚えてないんですが、気を失ってしまう。と、目が覚めるとバスタブの中に横たわっていて目の前にメモが貼ってある。読んでみるとそこには「命が助かりたかったら、ここに電話しなさい。○○−****」男は、自分のお腹に切って縫い合わせた様な跡があるのに気付く。男は実は臓器の一部を抜き取られていたのだ。という話ですよね。
これも話しているうちに「肝臓が盗られ、腎臓が盗られ、心臓まで…」とか言う話にエスカレートする事もあるらしく、(そーいう話してる外国TVドラマ見たのよー)わははは、「ダルマ女の手足が切り取られ、ついには首まで」と言う話を思い出して、国が違っても人間の発想って同じ方向に行くんだなぁと、思ってしまいました事よ。
気付いたんですが、これら都市伝説の恐怖の底には「何か見知らぬものが侵入してくる」という怖さが流れていますよね。身近な安心できるものの中に、異物が侵入してくる恐怖です。
キチガイ女が一見普通の人をよそおって(マスクをかけている)侵入してくる口裂け女の話。
体の中に本来自分の体の一部でないものが侵入していたフジツボの話。
臓器を盗られる話も、自らの体の中に手を突っ込まれる話ですからね。
ダルマ女は少〜し趣が違っていて、ダルマ女自身でなく家族の中に手足を切りとられた異形が、持ち込まれるタイプになる話です。ああ、長くなった。

 
あ ハンバーガーの中にミミズ、とかね。
異質なるものを排斥する意識と言うのが、「怖い話」には強く働いているんじゃないでしょうか。差別意識、そして新しいものに対する反感から来る教訓的なもの、と言うのが「都市伝説のバックボーン」と言ってもいいかと思います。
だから何度も言うように、「都市伝説」は大人の語る話なんです。
あ、それから「現代妖怪」と言うのは私達が作った全く新しい言葉です。一般的に認知されている言葉ではありません。「花子さん」「テケテケ」「口裂け女」「人面犬」「(3本足の)リカちゃん」「四時ババア」「ジャンピング婆ァ」などを指しています。

 
玲 花子さんと言うのは、主なものだけ簡単にあげますが、トイレにいてノックをして「花子さん」と呼ぶと返事をする、と言うオバケですね。
テケテケは、下半身が無く上半身だけで、手を使って追いかけて来るモノです。口裂け女は、色々描いたから、説明はいいとして、人面犬は人の顔をした犬、と。簡単なものですね。これは、お話が全然無いや。
リカちゃんは、引っ越しの際、置き忘れてきた人形が電話をかけてきて、だんだん自分に近づいて来る話。
四時ババアは、4時に出るババア? ジャンピングババア婆は、ジャンプして追っかけて来る婆ァですが… そのまんまやん。
やっぱりこうなってくると、子供のものだなー、と思いますね。名前とそれに付随するちょっとしたエピソードしかないんです。
学校の七不思議とか言うものも簡単ですね。ベートーベンの肖像画が笑うとか、ピアノから血が滴るとか、ホントにエッセンスのみです。こういう事がある、こういう奴がいる、とか事象を語るだけ。
ただピアノから血が滴るみたいに、まだ名前のついて無いものに関しては、昔ピアノを弾いていた子の手の上に重いフタが落ちて指がちぎれて、みたいに話が続く事もある訳です。
名前がついてしまうと、もう、お話は無くなりそいつが何をするか、と言う事ばかり語られます。妖怪とは「〜をするもの」ですから。

 
あ 「妖怪とは、怪奇な現象を説明する為の機構である」と。これは京極堂のセリフですけどね。(by 京極夏彦)
だからそのものについてのいわく因縁は必要ないんです。「日本ダルマさんがやって来て子供をさらって行ったり」しちゃう訳です。名前がつくって、そういうことなんだな。
だから逆に言うと、妖怪にとっては名前は大切なんですよ。「妖怪とは名前そのものである」と言ってもいい。

 
玲 だから、やっぱり全然違うものですよね。性質が。
本当にあった話なんですけど、で語られるウワサ話(都市伝説)と、人面犬にはスピードメーターがついている、とかいう話とでは。
その辺の事を99年7の月のSF大会では、はっきりさせられなかったんで。時間も無かったし、初めての発表で要領もわからなかったもんで。その区別を一度きちんとやっておきたかったんですよね。
だって、少し前にある本で、都市伝説とは口裂け女とか学校の怪談とか、ああいうものだ、とかいう文章読んじゃったんだもん。SF大会でも、そーいう事言う人いたしさ。
いかーーん! 学校の話では無ーーい!
「ミミズバーガー」も「だるま女」も「フジツボ」の話も学校の話じゃないんだろう?
その辺、意識的に区別する事を希望する。
今回は「口裂け女」がメインだったけど、実際他に語りたい事はたくさんあるのでまた、怖い話の本はきっと出ると思います。え〜と、ちょっとこの本作っている時に話題に出てきたんだけど、黒い服を着た男の話とかね

 
あ ウン、次回きっとやろう「都市伝説の輸入」について、かな? 
結構2人で色々考察しているので、語りたい事は山ほどあるんです。
でも、資料は多いほどいいんでアンケ−ト、よろしかったら答えて下さい。
その他にも、似た話や新しい話を知っている方、 メール下さい
よろしくお願いします。

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