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毎日の向こう、いつか来る日

「家族と恋人の愛が違うことは、僕にも解ってる」
ある日、ベッドの中で、ふとコウがそんな事を語り出した。
「ああ、うん」
オレは応える。
セックスの後、オレが好きだよって囁いて。
つい続けて『愛してる』って言いかけたあと、慌てて口をつぐんだら、コウは一瞬怪訝な顔をしたんだけど、すぐ妙に寂しそうに『自分には愛が解らない』とか言い始めたんだ。
だからオレは聞いてみた。
『愛されたことはあるんだよね?』って。
そうしたらコウは、少し考えて答えた。
『うん…両親には、間違いなく』

両親にはちゃんと愛されたコウ。
でも…。その後の恋愛経験が最悪だった事を、オレは知ってる。
『親の愛は解るって事? その…恋人の愛は、よく解らない、とか?』
それはオレにとってはかなり重大だ。
だってオレは、コウの「恋人」なんだから。
愛してるって、本当は言いたいから。
コウの話を、オレは少し真剣に聞くことにした。

どうなんだろう…。
そう呟いて考えた後、コウはためらいながら言った。
「親からの愛と恋人の愛は違うだろう? 相手を大事に思うところまでは同じかもしれないが…。恋人の愛は、その…こういう事がしたくなるし」
「まあね」
裸でベッドに入っているワケだしね。さっきまで、そういう事してたし。
「恋人の愛には欲望が伴ってる。愛しているから欲しい。そうだろう?」
でも……。
コウは微かに溜め息をついた。

「欲望は恋人の愛に伴うのだろうけど。欲望は欲望だけで成り立つ。愛が無くても、身体は抱ける。僕はそれも知ってる」
「そうだけど、コウ…」
「だったら、僕には区別が出来ない。僕を欲しいと思っているそれが、愛を伴った欲望なのか、欲望だけなのか。どちらも行為は一緒だから」

そっか、とオレは頭を掻いた。
何となく、少しだけ解った気がした。

「それが…怖いの?」
「怖い?」
一瞬驚いたように目が見開かれたが、すぐに何かに思い当たったように目を伏せた。
「そうだな…。そうなんだろうか。僕は怖い」
コウは結構素直に、『怖い』を口にする。
初めて会った時は、コウには怖いものなんて何も無いように見えたのに。
でも組んですぐにコウは『外は怖い』と言った。
「コウが愛を怖がっているのは、それが愛なのか解らないから?」
「そう…なのかも、しれない」
オレはコウを柔らかく抱きしめて耳元で言った。

「じゃあオレ、コウとセックスしない方がいい?」
「え?」
「欲望が加わると愛が解らなくなるならさ」
「……それは」
「それは?」
「僕が…困る」
口の中の小さなつぶやきに顔をのぞき込むと、コウは本当に困っているって表情をしてた。うつ向いて眉をかすかに寄せるだけ。
でもオレには解った。コウは少しだけ混乱して、かなり困ってる。
オレは思わず笑ってしまった。

「大丈夫、解るよ」
「香澄?」
「コウにも解る」
「そう…なんだろうか」
「そうそう」
オレの笑顔に、コウの口元もほんのりと緩む。
うん、そんな微妙な表情も今だったら解る。

「行為が一緒なら区別できないってコウは言うけどさ。でも、ずっとそうなのかな? コウはたとえばオレが笑っているとして。苦しくても無理して笑っているのか、心の底から楽しいと思って笑っているのか。その違いもコウには解らない?」
「どう…なんだろう?」
「今のオレは、どう見える?」
「今は…普通に、笑っている…か?」
「普通って?」
「無理して笑っているわけじゃ、ないというか…」
「そうそう、ほら、コウだって解るじゃん」
オレはコウの顔をまっすぐにのぞき込んだ。
コウの表情がオレによく見えるように。オレの顔がコウからよく見えるように。


「オレさ、最初はコウの表情読むの、大変だった。御世辞にも表情豊かとは言えないからな、コウは。でも最近はずいぶん解ってきたんだぜ。だって毎日見てるからな」
「毎日…見てるから?」
「そうだよ。毎日見てる。オレ、コウの顔が見たいんだもん。好きだから。だから注意してずっと見てるんだ。そうしたら…そりゃいつもじゃないし、解らない事もあるけど。それでもだいぶ解るようになってきたんだぜ」
「だから…僕にも解る…と?」
「解るよ。他の人のことは解らなくても、オレのことだもん。オレに愛があるのか無いのか。そんなのコウには絶対解る。今はまだ解らないのだとしても、そのうち解るから」
コウは大きな瞳でまっすぐオレを見ていた。
未だにオレは、そんな風に見つめられちゃうとドキドキして照れて視線をそらしたりしちゃうんだけど。
今はもちろん、そんなことしない。
コウに負けないくらいまっすぐに、瞳の中をのぞき込む。

「オレたち毎日隣にいて、いつも護るべく気をつけてる。パートナーだから。オレ達」
「香澄……」
「まあ、その。普通のパートナーとはちょっとばかり感情の種類が違うかもしれないけど。でも、コウがいま、一番神経を配っているのはパートナーであるオレだ。そうだろ?」
「ああ」
「仕事以外のプライベートでも、一番近くにいるのはオレだよな? 恋人だもん」
コウは何も言わなかったけど、小さく頷いた。
「プライベートでも仕事でも、毎日一番近くにいて、一番たくさん見て、声を聞いて、話してる」
オレは再びにっこり笑った。

「じゃあ、オレのことは解るよ、コウ。別に全部じゃなくてもいいんだ。半分くらい解れば上等さ」

そのままオレは、コウをぎゅっと抱きしめた。
「好きだよ、コウ」
「…僕も」
言いかける唇に軽く触れて首を振る。
「コウは答えなくていいから」
「香澄?」
「オレの好きを、ただ聞いててよ」
オレはコウの柔らかな髪を撫でて耳元で囁いた。
「コウ…好きだよ」
「ん……」
「好きだ」
「うん…」
「好き…」

オレは子守歌みたいに、コウの耳元で「好き」を囁き続ける。
コウは初めのうちは、妙にくすぐったそうな表情をしていたが、それは次第に柔らかくほぐれはじめ……そして、何度か目の「好き」で、ひっそりと息を吐いて目を瞑り、オレの首筋に顔を埋めた。
穏やかで規則正しい息が、温かく髪にかかる。

「大好き」
「……」

きっと解るよ、コウ。
一番好きなら、きっと解る。
信じられないなら、今はただ聞いて。
浴びるほど好きをあげるから。
オレは毎日コウを見ていて、表情が解るようになってきた。
だから、毎日好きって言うから。毎日聞いて。
明日になったら、もっと言うから。

いつか…愛してるって普通に言える、その日まで。

END






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