二度目の情事



 夜勤明けに、二人で大浴場へ行った。
パートナーは勤務時間中一緒だから、勤務あけの行動が一緒でも不思議じゃない。オレたちは寮住まいだから、一緒に風呂にはいるのも、当たり前だ。
それはそうなんだけど…。

オレはなんとなくそわそわしていた。
初めてセックスしちゃってから、二週間ばかりたっている。
だけど、それきり二度目はなかった。
別にしたくなかったわけじゃない。
むしろしたかったともさ! だってオレは若いんだから。
最初の切っ掛けは成り行きだったけど、そんな事はどうだっていい。
好きだって言って(そういえば…黒羽さんには言われてないような…)エッチして。そういう関係になれたんだ。
それこそできるなら、毎日だってオレは黒羽さんと抱き合いたいよ。
…でもその。
警察って、大きな事件が無くても大変な職場だし、帰ったら寮生活で。
なんていいますか。その機会が無いって言うかさ。
そりゃあ、どうしてもエッチしなくちゃ収まりがつかねえぜっ! 道端でもヤルっ! なーんてわけじゃないけどさ。
でも、その…。なんだかあまり間が空いちゃうと、不安になるんだ。

黒羽さんは本当は、一回きりのつもりだったんじゃないか、とか。
こっちばかりが盛り上がって、本当は迷惑だったんじゃないかとか。
も、もしかしてオレのエッチが下手だったから、見限られちゃったのか?
…とかさ。
うわあ、最後のは考えたくない。
だけどチラッとは考えちゃうよな。黒羽さん、経験豊富そうだし。他の男と比べられたりしたら…ううう。くそー。こんな事だから世の中、処女にこだわる男が増えるんだって。
処女かどうかにこだわるのなんて、自分に自信がないからだっ。
オレは絶対にそーいうみみっちい事は言わないゾッ。

だけどまあ、間が空くと、誘いにくくなっちゃうのも確かだ。
更に、何度もエッチしちゃってる仲ならともかく、雰囲気もムードもすっとばして、いきなりエッチに持っていけるような技も持ってない。
けどでも、デートしたり、ムードを作るような時間と空間の余裕が、無いんだよーっ。(泣)

こうなると逆に、パートナーで毎日顔だけは合わせているのが苦しい。
いつも一緒なのに、二人っきりじゃない。
チャンスがありそうで全然無い。
手を伸ばせば、すぐに触れちゃうのにさ…。

なんて日々ぐだぐだ思っていたもんで、これは、そこはかとなくチャンスな気がしていた。
風呂から出たら、二人っきりになれる。時間的にもチャンスだ。
もっとも疲れているから、風呂なんか入ったら、寝ちゃったりしてな。
まあいいや。キスだけだって。
とにかく風呂から出たら、一発誘ってみるぜ。
チャレンジ精神だ、香澄ちゃん。
とりあえず、風呂で裸なんか見て、ムラムラこないことだけを祈ろう。
男風呂で勃ててる姿なんて、誰にも目撃されたくないからなっ。



しかし、大浴場には他に誰もいなかった。
ただお湯の流れる音だけが、心地よく響いている。
うん…。この時間に人がたくさんいるって事は、確かにないよな。
二人っきりかあ…。
少しだけ嬉しくなりながら、身体を洗って、オレは湯船に身体を沈めた。
隣に黒羽さんが入ってくる。
二人肩を並べて、湯に浸かるって、気分いいな。
熱いと思っていたお湯にも、最近慣れてきたし。

なんて思っていたら、いきなり隣にいた黒羽さんが手を伸ばしてきた。

わっ

いきなりナニに触られて、オレは飛び上がった。
「コ、コウ」
「香澄…」
不意をつかれて、黒羽さんの事、名前で呼んでしまった。
心の中じゃ、いつも呼んでるからさ、コウって。
思わず隣を見ると、そこにはコウのアップ。
コウはオレのを握ったまま顔を近づけて…。

キス。

湯の中で、裸の身体が触れ合う。
舌が熱く唇の中に忍び込んでくる。
ああもう、オレ…たまんない。
だって、二週間もこんな風にしてなかったもの。
それに…別に嫌がられてはなかったんだって、ホッとする。
オレは黒羽さ…コウの身体を抱きしめた。
初めて抱いた、肌の甘さが甦る。
コウもオレのを握っていた手を放して、オレの背中を抱く。
堅くなったコウのモノがオレのと触れ合った。

うわあ。
なんか、ホモっぽい。このシチュエーション。
コウが男だと改めて実感する瞬間。

そりゃ一度だって、コウを女だと思ったことなんかない。女みたいだと思ったこともない。
だけど、この綺麗な顔。どちらかというとニュートラルな、透明でクールな美貌。これだけ綺麗な人って、世界中どこを捜してもいないと思う。
なんだかそう思うと、男とか女とか関係ない気がしてくるよな。
しかも今は、クールな貌が、ほんのりと溶け始めている。
メガネを外した甘い視線。湯気でふわりとフォーカスがかかる。
白い肌も温まって桜色で。
ああもう。
本気でたまんないよ、オレ。

といっても、セックスしたのは二週間前が初めてだし、こんな風に触れあったのも、最初の失敗を入れて、やっと三度目だ。
そもそも、オレはホモじゃないし男とセックスした経験なんて皆無だったから、前回は気ばかり焦って、上手くできたとはとても言い難い。
ちょっとショーーーック、てなもんだ。
コウがリードしてくれて、ようやく何とかなったって感じがする。
大体殆ど何もかもコウに用意して貰ってさ、夢中でやっちゃった最初はともかく、二回目はオレを自分から身体の中に入れてくれたから、何だかあまりコウが男だって事を意識しないまま、エッチしちゃったんだよね。
でも、こうやって裸で向き合ってると、コウは間違いなくオトコだった。

ああ、オレたちって、ホモなんだなあ。
変な感慨が湧いてくる。
コウは男で、オレも、男で。同じ感覚を共有してる。たぶん。
したいと思う気持ちも、一緒なんだ。

「香澄…」
コウの手が再びオレの中心に伸びてくる。
今、したい。
オレからじゃなくて、コウから誘われた形になっちゃったけど、でも、こんなチャンスって滅多にない。
確かに誰もいないけど、風呂からでたらって思ってたのに。
でも、今?

なんて迷ったのは一秒くらいだった。(早っ)
オレはのぼせないうちに、さっさとコウを引っ張って湯から上がる。
この気分が覚めないうちに、もう一度コウと身体を重ねたい。


    


入り口からは死角になるシャワーブースで、もう一度キスした。
オレが伸び上がる形になるのが、ちょっと不満だけど、仕方がない。
コウは壁に手をついて、向こうを向く。
最初の時と一緒で、後ろからだ。
そりゃ、こんなタイルの所で向き合ってなんか出来ないから仕方がない。
ホントはもうちょっとこう、挿入する前の、ええと前戯? とかしたいけど、こんな所だしなー。誰か入ってきたらおじゃんだし、もうコウは挿れる体制に入っている。
まあいいや。とりあえず、ローションとかは…あるわけねえな。
近くにあったボディソープを自分のモノに塗りたくる。
別に、大丈夫だよな。
風呂場だから後で洗えるし。

オレはそのままコウの中に、自分自身を押し込んだ。
そして泡だらけの手で、コウのモノも握る。
「あっ」
小さく声があがった。
オレはゆっくり出し入れしながら、同じリズムでコウのを扱いてみた。
なんか、変な感じ。
でも、コウは感じてるみたいだ。手の中のモノが、堅くなるのがわかる。
いいじゃん。
その調子だぞ、オレ。
「あっ、あ、ぅ、んんっ」
後ろからだと顔が見えないのがイマイチだよな。
でも、息が荒くなって、声も悩ましくなってきてる。
何より手の中のモノが存在感を増して…。
ようし、今日は先にイかせてやるぞ。
オレはちょっと張り切ってしまった。
前だってオレばっかイッちゃって、そこはかとなく情けなかったもんな。
とりえは若くて回数がこなせるだけ、なんて思われたくない。

オレはコウの中をぐるぐると掻き回して、掌の中のモノを愛撫する。
「ああっ…はぁっ…」
だんだん声が大きくなってくる。
「あああっ」
ひときわ声が高く上がった部分を、オレは積極的に突き上げる。
そのままピッチを早めると、コウは背を反らして体を震わせ、オレの手に射精した。

やったじゃん。オレ。

つまんないことだけど、オレはすごく感動してた。
少しだけ、コウと対等になれた気がする。
でも、もちろんまだまだだけど。
なにせ、やっと二度目のエッチだし、コウから誘って貰った形になっちゃったし。
エッチだけじゃなくて、年も、背も、能力も経験も、何もかもオレはあんたに追いつかない。(…あ、階級だけは上か。タナボタだけど)
それでも。
きっと、そんなのは越えられる。
オレ、頑張って、コウの心も体も、ちゃんと捉まえてみせるよ。
こんな風に抱き合えば、オレの根拠のない不安なんて、あっさり吹っ飛ぶ。

捉まえて、抱きしめて。
本当に恋人に、なるんだ。

オレはコウの背中を抱きしめて、耳に囁いた。
「部屋へ行こう」
部屋に行って、ちゃんと抱き合おう。
向かい合って、オレ、コウの顔が見たいよ。

今度はオレから誘えた。
小さく頷いたコウは、とっても綺麗だった。

END