Lovers' kiss



舌を絡ませる、本格的なキス。
お互いの口の中を探る湿った音だけが身体を熱くする。
いいな。
こんな風に盛り上がって、したくなって。
抱き合ってエッチできる恋人がいる。
なんてステキなんだろう。
いつか、こんな事も当たり前になるのかな。
まだまだオレは、いつでもドキドキしてるけど。

映画祭警備の打ち合わせの後、思ったより早く帰れたオレとコウは、もちろんまっすぐ帰ったりなんかせず、二人っきりになれる場所に飛び込んだ。
何も考えたくなかった。
ただもうオレはコウが欲しくって、ベッドの中に転がり込んで。
上から動けないように押さえつけて抱きしめたら、なんだかコウはすごく嬉しそうだった。
「香澄……」
目が潤んで、頬に赤味がさしている。
ただでさえめちゃくちゃ綺麗なのに、こういう状態になったら、もう、色っぽいなんて言葉じゃ表現しきれない。
この顔をアップで撮って映像として流したとしたら…。
断言してもいい。どんな男だって下の方が突っ張って前屈み状態になっちゃうよ。

普段のコウしか知らない連中が、なんとなく敬遠して遠巻きにするのも解る。
綺麗だけど気安くは近寄れないって感じするもんな。
でも、そこを越えて中に踏み込んだら……。
もう、天国が待ってるって感じ。
あああ、ダメダメダメ。
高島ってテレビプロデューサーは、コウをドラマに出したいみたいだけど。
こんな顔、スクリーンにほんの少しでも映すなんて、絶対ダメ。
だって、これはオレのものなんだ。
密室で、二人っきりで、オレだけが見たい。

もちろん見るだけじゃなくて、お触りOK。
脱がせて、舐めて、抱きしめて。
隅々まで、内緒のとこまで味わいたい。
今日は時間があるし。じっくりねっとり触りまくっちゃうぜっ!!
そう宣言したら、コウは濡れた瞳でオレを見上げて小さく頷いた。

胸にぽつんと色を付けている小さな乳首をいじって舐める。
コウはすごく感じやすくて、目を瞑って声を出すのを我慢している。
長い睫毛が震えてるとこなんか、すごく可愛い。
なんかさ。そういう我慢しているところも、実はすごくそそるんだよな。
だって、最初にコウとエッチしはじめた頃って、実はコウはもっと大胆だった。
声も大きかったし(今でもイキそうになる辺りは、声でかいんだけど)どんな過激なことでも全然平気って感じだった。
なのに最近は、なんというか、恥ずかしがるわけよ。
目を瞑って気持ちいいのを耐えてたり、大きく声をあげることをためらったり。
普通、順番が逆だろうって思うけど。
でもその、オレを相手に恥ずかしがるって所が、すごく嬉しいし、興奮もする。
だってそれって、オレ自身をだんだん意識しはじめてるって事だろ?
ただ身体を慰め合うエッチの相手じゃなくて、『オレ』とのセックス。
そういうことだろ?

詳しいところはもちろん知らないけど。
でもコウが、身体を売るみたいに過ごしていたのをオレは知ってる。
だから、きっと、多分だけど。
オレと最初にはじめたセックスも、その延長線上だったと、オレは思うんだよね。
コウとオレで楽しむエッチじゃなくてさ。
もっと即物的に、身体をただ満たそうって、そういう感じのエッチ。
だから別に恥ずかしくないし、大胆なことや、結構アブノーマルなことも、望まれればためらいなくやっちゃうみたいな。

だから、今のコウが、オレは嬉しい。
雰囲気出てきたって言うかさ。
身体だけじゃなくて、心もついてきてるっていうかさ。
大胆なのも、まあ少しはビックリで、楽しいこともあるけど。
でもオレは、コウの心も欲しいから。
オレとエッチするのは、他のヤツとするのと違うんだって、コウに思ってて欲しい。
ホントは、他のヤツとエッチなんて絶対するなって言いたくなるけど。
とりあえず、それはもう少し先でもいい。

だからさ。
たとえコウ自身に、まだ自覚はないにしても、でも嬉しいんだ。
コウがこんな風に恥ずかしがったりすると、異様に萌えちゃうんだよね。
もっと、いじって、触って、コウの身体と一緒に、心も開いていく。
昔はどうだか知らないけど、今はオレだけだろ?
心も開いて、エッチしちゃっていいのは、オレだけだろ?
だんだんに、全部オレのものにしちゃうよ。
身体から入って、気持ちよくして、心までイカせられたら……。
ああ、畜生。
早くそうなりたい。
オレとのエッチで、オレの身体で、コウの全部が喘いでメチャクチャに乱れる姿を見たい。

そんなこと考えてるだけで、実はオレのモノはビンビンになってた。
コウが目を見開いて、触りたそうに手を伸ばす。

ダメダメ。
憎らしいことに今の段階では、喘いでイカされちゃってるのは、どちらかというとオレの方なんだから。
そりゃまあパートナーがテクニシャンってのは、嬉しいと言えば嬉しいけど。
でも今日は、オレのほうがするって決めたんだから。
コウに簡単にイカされるわけにはいかないんだよなっ。
というわけで
「体位は、どんなのが好き?」
なーんて質問したり、恥ずかしがっているところを無理矢理大胆なことをさせちゃったり。
口開けさせて、舌で探るような濃厚なチュウしちゃったり。
やりたいこといっぱいだぜ。
ヌルヌルのローション手につけて、ローションプレイのお誘いもしたんだけど。
とりあえずそれは、後で風呂の中でしようということになった。
まあ、いいや。まずはここで色々楽しもう。
ベッドの上のコウは、ある意味壁が取っ払われていて素直だから。
オレはどんどん中まで入っていっちゃおうと、思っている。

 

 

「ああっ……あああっ。香澄っ…」
出来るだけ激しく、なんてせがまれたもんだから、コウの望み通りオレは激しく突っ込んでコウの身体を揺らした。
奥の方まで突き上げて、ぐいっと引き抜く。
入れたままかき混ぜるように動く。
「ん……ぅうんっ」
コウの唇から、耐えきれなくなったように声がこぼれ、白い肌がふんわりピンクに色づいていく。
こうなると、身体のどこを触っても声があがる。
感じてるんだ……すごく。
立ちあがった乳首もさっきより色が付いて、いかにも感度良さそうって感じ。
誘ってんだから、触らなきゃ嘘だよな。
オレはコウの身体をもっと折り曲げて、上から体重をかけた。
「は……あぁっ…かす…み」
オレのが奥まで深く入ってきたからだろう。
ビクッと身体が震える。
「こういうの、いい? コウ」
聞きながら抽送を繰り返す。
内股に手を伸ばし、敏感になっている肌をそっと撫でる。
「……っ。い、あぁっ…」
耐えられなくなったように息が漏れ、コウの指先がぎゅうっとシーツを掴んだ。
勃ちあがった中心から、透明な液がこぼれはじめる。
「ああっ、香澄……」
「気持ちいいんだ、コウ…」
もうあんまり喋れなくなってるらしいコウの乳首を、手を伸ばして弄ると、いちだんと高い声があがった。

コウの身体が、オレの下で溶けて乱れていく。
すごくエッチで、いやらしくて、甘美な味がする。
オレが上から覆い被さるようにして動くと、シーツを掴んでいたコウの手がオレの背中に回った。
緊くしがみつき、脚を絡めてオレを深く受け入れる。
「…っ」
吸い付いてくる感覚に、オレの頭は痺れ、身体が震えた。
「コウ、オレ、ダメ。もうっ…」
コウをイカせるつもりだったのに…。

結局オレは、先にコウの中で果てた。



もちろんその後、すぐにオレもコウをイカせたわけだが。
基本的に経験豊富なコウの身体は、愛撫にひどく敏感だった。
あちこち弄られて、喘いで、乱れる姿。
イッた後も、すぐに次のセックスを求めてくる。
もちろん、もう一回だよな。
まだ挿入ったままのオレのモノも、再びコウの中で体積を増す。
「うっ…香澄…。また……。もう…」
再び正常位をねだったコウの腰を押さえつけるようにして、オレはぐいぐいと突き上げた。
「あっ…、あっ…。はっ……」
息が弾むように乱れていく。
一度イッたから、コウの中はぬるぬるだ。
たまんない……この吸い付くような感触。

コウも後ろに関しては、2度目の方が感じるらしい。
積極的にオレの腰を掴んで、自分から擦りつけて喘ぎはじめた。
恥ずかしさよりも、自らの快感を貪欲に求めはじめた姿が、オレを興奮させた。
「香澄……。あっ。巨きく…なって…る?」
男の身体の正直な反応に、コウはすぐに気付いて掠れた声をあげた。
オレは返事のかわりにニヤッと笑うと、コウの中をぐりぐりとかき回してやった。
「あっ…。やっ…。香澄っ」
コウの声がひときわ高く上がる。
気持ちいい? いいんだよな?
すごくそそるよ、コウ。メッチャ色っぽい。
ちょっと動くだけで、唇から声が漏れる。
イカせると達成感があるんだろうって、コウは即物的なことを言った。
その時はムードねえなって思ったけど。
でも…、確かに身体はひどく即物的で。
もっともっと乱れさせたくて、感じさせたくて、オレは足を抱え上げてコウのそこをむさぼった。

オレの興奮に呑み込まれたように、コウは積極的に行為をねだった。
「香澄……。いい…。もっと…。もっと、欲しい」
湿った声と一緒に、コウの腰が物欲しそうに蠢く。
もちろんオレは待ってましたとばかりに、コウの動きに合わせて奥の方まで突き上げた。
「あああっ。香澄。すご…い」
コウの身体がびくんと跳ねる。
そりゃあもう、心もアソコも盛り上がってるもんな。
コウがオレので感じてるって思うとさ。
コウが震えて、ねだって、オレの下でイクなら、もう何度でも出来ちゃうぜって言いたい感じ。
言うかわりに再びガシガシと腰を動かしはじめると、コウのあそこが、ぎゅうっと締めつけてきた。
既に限界まで張り詰めていたオレは、思わず声をあげてしまう。
うわ、ヤバ……。どうしよう。すげえ、いい。
二度目だってのに、すぐイッちゃいそう。

しかし、先にイッたのは今度はコウだった。
「香澄っ。かすみ、ああっ……」
大きくオレの名前を呼ぶと、コウの身体が反って、先端から白濁が弾ける。
でもオレは、動きを止めなかった。
止めないというより、止められなかった。
だってオレだって、もうイキそうなんだ。
射精するコウの身体を力で押さえつけ、自分の快楽だけを追い求めてぐいぐいと腰を打ちつける。
「ああっ…うっ」
射精の快感と後ろから打ち込まれ続ける刺戟に、コウは小さく悲鳴を上げた。
「やっ…ああっ…香澄っ……」
コウの白い身体が、跳ねてうねる。

潤んだ瞳と湿った舌。
オレを受け入れて喘ぐ、掠れた声。
乱れて、白い肌が上気して、うっすらと色づく。
最高に、いやらしい。オレを受け入れて感じる身体。
コウが悲鳴のような声をあげても、オレはやめなかった。
頂点に達したコウの身体を、更に激しく突き上げて揺らす。
「ひっ…。香澄。もう…もうっ…。香澄…もっ」
「うん、オレもっ…」

もちろんオレだってそんなに保ったわけじゃなかった。
ただでさえ限界ギリギリだったんだ。
「コウっ……。あぁっ」
自然と、声が出てしまう。
ベッドを激しく揺らし、コウの一番奥まで打ち込むと、オレはそこで一息に果てた。
何度もやろうって思ったけど、もう後の事なんて考えられない。
先端から快楽がはじけ飛び、オレは狭くてキツイコウの一番奥に、それこそ全部、注ぎ込んだ。
同時に、コウの身体をぎゅっと抱きしめる。
コウは嬉しそうに、背中にまわした腕に力をこめた。
「ん……ああ。かす…み」
「はあっ、……ああ…。コウ」
しがみつくようにしてオレの全部を受け止めると、コウはふうっと息を吐き、オレを見上げて微笑んだ。
オレも荒く息をつきながら笑い返し、唇にチュッとキスをする。



好きだよ……コウ。
本当に、すごくすごく好きだよ。
これは、そういうキス。そういうセックス。
最高に気持ちいい、恋人とのセックス。
何度もしよう。
なんども、しようよ。
コウがまだよく解ってなくても。
オレ、コウが解るまで、何度でもこんな風にコウを抱くから。
気持ちいいだろ? すごく、いいよな?
コウが今まで知ってるセックスと、オレとのエッチは違うんだって。
コウが解るまで。
何度でも、何百回でも。
今すぐは、えーっと、ダメだけどさ。
でも、何度でもオレはこんな風に、コウと抱き合いたい。

コウの心は、身体の後からついてくる。
昔より今の方が、恥ずかしがって雰囲気あるのが、その証拠。
だから、まずは身体から。
身体から気持ちよくなろう。
オレの『好き』を、何度でもコウの中に注ぐよ。
コウの身体も、少しは解っているよな。
こんなに感じてるんだもんな。
抱きしめて、恋人のキスをねだるんだもんな。

なあ、コウ、オレさ。
ホントは愛してるって言いたいんだ。
すごく言いたいけど……。
でも、それってどことなく、コウの地雷みたいだから。
それに愛って何かって聞かれたら、オレにも解らないしな。
難しいな。
もしかしたら正義の味方になるより、愛を語る方が難しいのかもしれない。

あんなに激しいエッチをした後なのに、オレ達は目を瞑って、そーっとキスをした。
柔らかい感触。
優しい息。
抱き合って、キスできる恋人。
この瞬間を、オレは護りたいんだ。
オレだけの幸せではなく、コウだけの悦びでもない。
二人の。オレ達二人の、こんな瞬間。
守らせてよ、コウ。
もう二度と、コウの手を放したくないから。
コウの唇の感触を、後で思い返して日々を過ごすなんてごめんだから。

いつでも手を伸ばせば隣に。
触れたければその唇に。
こんな風にキスさせて…。

 

 

コウの唇を舌で舐めて、オレはもう一度口づける。
するとコウが、小さく何か呟いた。
「香澄……ええと、その」
「ん? 何、コウ」
甘い気分で、オレは唇に耳を寄せる。
しかしコウの囁きは、オレのまったく予想外の言葉だった。

「風呂場で、ローションプレイ、するのか? 本当に?」

束の間意味が解らなくて、オレは眼をぱちくりさせた。
だが次の瞬間、オレは思いっきり吹き出してしまった。
コウの上にのっかったまま、ゲラゲラと笑う。
「なに? 香澄、僕は何か…おかしな事…?」
爆笑するオレの下で置き去りにされたコウは、困ったように首を傾げた。
「いやあ、コウ……だって…」
説明しようとした途端、また吹き出してしまう。
タイミングの問題だとは思うけど、どーもオレの笑いのツボに入っちゃったらしい。
腹筋が震えてしまって、まともに声が出せない。
目尻にかすかに涙が滲んできた。
それでもオレは、どうにか声を絞り出した。
だってこのままコウの上で笑い続けたら、すげー変な人じゃんか。

「だっ、だってさ、コウ。オレさ、オレ今、すげーロマンチックな気分に浸っていたのにさ」
「あ……。ああ」
「コ、コウはオレとのローションプレイのことなんか、か、考えていたわけ? やっぱコウって、メッチャ即物的だよ、ホント」
「でも……」
震えて笑い続けるオレに、さすがにコウは憮然とした表情になった。
「でも香澄が最初に言ったんじゃないか。後で風呂場でローションプレイするって。そう言っただろう?」
「い、言った…けどさあっ」
「なのに今ので、僕も香澄もしばらくダメなんじゃないのか? だから…。どうするのかって」
「どうするのかって、オレに聞いたわけ? そんな律儀な…」

再び笑いの発作に襲われて、オレはコウの上に倒れ込んだ。
「香澄、人に抱きついて笑うな」
「なんだよう、さっきまで抱きついて、もっともっとって言ってたの、コウのほうじゃんか」
オレは笑いながら、コウの身体をまさぐった。
何か言い返そうとしたコウの唇が、ほんの少しだけ閉じる。
う〜ん。コウを黙らせたかったら、キスか愛撫しろってか?
そんなことを思いながら、オレは更に身体を探った。
「コウもさ、コウもしばらくダメなのか?」
「……ああ、うん。そう…だな」
「オレも、さっきので相当イッちゃった」
「うん……」
コウの目が閉じる。オレの手の動きに、感じてるみたいだった。
「さっきのエッチ、よかった?」
「すごく…よかった」
コウは囁くように、甘く息を吐き出した。
オレはコウの耳たぶを、優しく噛む。

「ローションプレイ、したい?」
コウは少しの間、考えていた。
やがて、そっと唇が開く。
「時間は……あるよな?」
「そりゃー、もう。今日はね」
「じゃあ、もう少し、このまま…」
「コウ」
「身体、離れたく…ない」

言ってから、コウはひどく恥ずかしそうに顔を反らした。
もちろんオレは、その顔をこちらに向けさせ、唇に恋人のキスをした。

END