萌えの角度を測ってみたい


受攻の好みや、キャラの好みは人それぞれ。
特に女の好みは、うるさくて細かいものと、相場が決まっています。
ボーイズに非常に細かい好みシチュエーション設定の分類わけが存在することは、周知の通りだと思われますが。
どれだけ好みが細かく別れても、それでも多少の、王道と呼ばれる多数派の好みは存在します。

受攻に関するなら、受は攻より小さい方が王道。
(というわけで、正義の味方は外道)
たとえ年下攻めでも、年下の方が体格はいいというのが、王道です。
「先輩、オレ前から先輩のことを…」
とか言いながら、体格のいい後輩が、華奢な先輩を押し倒して、強引に奪ったりするわけですね。

もっと王道なのは、攻は年上のほう。背ももちろん受より高い。
綺麗で格好良くて、能力もある。そんな包容力のある攻が、背も低く体格は華奢。顔はきれいだが心も身体も傷つきやすい受を護ってあげる。
完璧王子様に護られる可愛い受。
うん、こういう王道も、もちろん好きでございます。
いつでも王道は、人の心をバッチリつかむもの。

この辺りの「王道」を頭に置いて、いざ「正義の味方」を見てみると…。

年下攻めで、受の方が背も高く、能力も上。
時には逆に受が攻を護ってしまったり、攻ばっかり風邪ひいたり。
受は殴られてもぶっ倒れなかったりする頑丈さ。
唯一心だけは傷つきやすく寂しがりやなので、その辺は攻が護ってあげる。

最後だけは何とかなっていますが、それにしても「正義の味方」の、このボーイズとしての外道ぶりはいかがなものでございましょう。
あえてマイナー気取ったんなら、まだ言い訳も立つというものですが、この辺りがたぶん自分の好みなんですね。
いや、王道も好きなんですけど。
自分で書いたらこういう設定になってしまった。何故だ。
一応最初は、ボーイズの王道っぽい話を書きたいなあ、と思って考えた話だった筈なのに。
「受が美形」「攻からメチャクチャ愛されている」
この2点だけは王道かな、と思うのですが。他の要素が外しまくりですよ。

年下攻めで、受の方が背も高く、能力も……

などという、以上の状況から。
正義の味方は、ボーイズの王道からは大きく外れているという見解を述べたわけですが。
上記の文だけ読むと、どことなく『へたれ攻』なのか? と思ってしまいます。
が、この状況でヘタレ攻めなら、まだ中心よりかしら、という気がします。
綺麗で能力のある受に対して、自信が無くて悩みが多くて、ドキドキビクビクしながら、それでも好きだから、という路線で攻める、ヘタレ攻め。

しかしもちろん、香澄はヘタレ攻めではありません。
風邪ひいたり女装したり、投げ飛ばされたりしても、全然ヘタレ攻めではない。
……ということは。
ますます外道の道を走っているような気がいたします。

しかしでは、正義の味方の黒羽と香澄みたいなカップリング組み合わせは、全然無いのか?
よっぽどマイナーなのか。
いや、そんなことはあるまい。
と乏しい記憶を探っていきましたら。
ありましたよ。よく似た感じの年下攻めカップリング。
二次創作ですが。でも私、とってもそれが好きでした。

それは、ファイナルファンタジー7の、クラウド×セフィロス
すみません。二次創作で。

二次創作なので、カップリングといっても、もちろん捏造です。
受攻をこちらが勝手に決めて、萌え萌えするワケなので、そりゃー好きなようにどうにでも好みでカップリングが可能です。
だから

『ありましたよ。よく似た感じの年下攻めカップリング』

と書いてしまうのは、ちょこっと違う気がしないでもないのですが。
しかし私が萌えたのは、とあるサークルが作った本のカップリングだったので、本家のファイナルファンタジー7のクラウドとセフィロスという訳ではないと思っています。
まあ設定だけみれば、一種のオリジナルとして好きだったと言っていいでしょう。

ファイナルファンタジー7のカップリングといえば、王道はセフィロス×クラウドでして。
超美形で背が高く、強くて完璧な男。英雄と呼ばれたセフィロス。
綺麗だが背は低く、昔はそれほど強くなかった少年クラウド。
この組み合わせでいったら、そりゃー、セフィロス×クラウドが王道ですよね。それに異存はございません。
しかし私は、「カッコいいクラウド」なるものを、同人誌において強く望んでいました。

好きなキャラが受になる。
二次創作ではよく言われる話です。
(もちろん逆もありますが、かなりの確率で、好きキャラが受になることが多いと言われる)
なにしろ受は、みんなから愛される存在ですから。
私はクラウドファンだったので、クラウドが愛される話は好きです。

しかし…受だとどうしても属性が「カッコイイ」ではなく「可愛い」になってしまうんですな。もちろん可愛くない男は愛せませんから、可愛いのはおおいに結構です。
しかし…可愛いけど、格好良くもあって欲しい。
ひたすら可愛いだけのキャラになってしまうと、ちょっと辛い…。

受に『カッコイイ』属性を望む。
この好みがあるために、実は私は、リバーシブルOK派だったりします。
(リバである事情は他にもありますが。その辺りの詳しい事は、エッセイコーナーの「みるみる解るヤオイ回路」をお読みください)
でもまあ、二次創作でリバというのはほとんど無いし。
だとすると、「セフィロス×クラウド」の本を買うか「クラウド×セフィロス」の本を買うか、どちらかしかない。
で、まあ。
セフィロス×クラウドの同人誌でも、もちろん良かったのですが。
結局カッコイイを望んだ私は、クラウド×セフィロスの同人誌を買うことになったのでした。

しかしクラウド×セフィロスは、王道カプの逆なので、当たり前ですが同人誌の数は限られてきます。
というわけで、主に買ったのは、大手サークルの本。
クラ×セフィの大手といったら限られてくるので、お解りの方はお解りのサークルです。

そしたら、なんていいますか。
自分的には大当たり。並ぶのが苦手な私ですが、並んで買いましたとも。

クラウドはカッコイイだけではなく可愛い属性も持っていますし
(年下の攻ですから、どうしてもカッコイイオンリーになると無理が出るのでしょう)
受はセフィロスですから、超美人で有名人。
銀髪をなびかせて長剣をふるう力持ち。
殴られても叩かれてもへでもないくせに、受ですからクラウドだけには弱い。
そうそう、こういうの♪ こういうカップリング大好き。
攻が身長のことで悩んだりするけれど、結構強気なのでへたれではない。

しかしアレですね。
こうやって箇条書きで列挙すると、すごく「正義の味方」に似ていますね。
もちろん正義の味方の二人は、このサークルのクラウド×セフィロスを参考に書かれたわけではございません。
(類似点には最近気付きました)
つまり、私は、そんな感じの『関係性』が好きなのです。
もともとそういう嗜好が私の中にある。
だから香澄と黒羽はあんな感じになってるし、そのサークルの本はすごく好みだったのでしょう。
類似点に気付いた時、そうか〜…本当に私って、こういうカップリングシチュが好きだったのね、とうんうん頷いてしまいましたよ。

で、どの辺りが好みなのかなあ、と考えたのですが。
まず思いついたのが、こういう組み合わせの場合

「守られるばかりの関係性」

が薄くなるということ。
どちらかが弱くて、守られる側だ、という傾きが、受攻の間には必ず存在し、その落差が『萌え』に繋がる、という話は、ヤオイにおける関係性の評論文などに散見される主張です。
これには私も、おおいに頷く所があります。
しかし黒羽と香澄のようなカップリングの場合、その差異がかなり平衡状態に近くなるのです。

王道の
攻は年上で背が高く、完璧でクール。
受は年下で背も低く、可愛くて傷つきやすい。
これは傾きは最大です。
受けは100パーセント守られる側。
もちろん攻の心に安らぎをもたらす存在である、という一点で、受けは攻を守ってはいるわけですが。
しかし基本的には、何でも出来る攻がどこまでも受けを守って安心させてくれる、という構図です。

カプの組み合わせは、これを少しずつ崩して入れ替えていく作業になります。
「守る側」「守られる側」にどれだけの傾きを与えるか。
このビミョーな傾き加減が、様々な好みを生み出すわけです。
あなたの「萌えの角度」は何度くらいですか?
みたいな感じでしょうか。

王道が好きな方は、無条件に理想的に守られる事にうっとりするタイプなのではないかと思われます。
これは王子様願望の一種ですから、そりゃーもう王道間違いなしですよ。
力強い王子に無条件に愛され、守ってもらえる。最高です。
もちろん私にとっても憧れです。

王道のカプは、王子様に守られる姫の図に近い。

しかしボーイズの場合、どちらも男ですから、どちらかが完璧な姫状態になってしまうのが好きではない人も多くいます。
私もどちらかというと、これに入ります。
女なら、完璧姫でもOK(自らの願望も入っているしな)
男の場合は、完璧姫は個人的にはイマイチ。

そこで、どの辺りの傾き加減が自分の好みにはいるのか、色々さじ加減を試してみるわけですね。

それでは、王道カップリングの真逆は何か。
受けが完璧に攻を守りきってしまう、ヘタレ攻めの極地…ではありません。(それはそれで、傾き度が非常に大きい)
王道カップリングの真逆は、二人立ち並んでいる図で、もっとも傾き度が低い組み合わせです。
つまり体格も技量も、立場も性格も似ている『コンビ』タイプ。
二人の差異はほとんどなく、大変平行線に近い。

どちらかがどちらかのフォローをしつつ、お互いを補完しながらコンビで動く。
そういった二人の組み合わせ。
これがあまりにも上手く組み合わさってしまうと、恋愛方向には行きにくくなります。コンビとしてあまりにも平等で完璧な二人は、受攻を割り振ることが難しいのです。
(リバーシブルなら、出来ないこともないけど…。でも完全平等なリバっていうのも、難しいですよね。たとえリバでも、どちらかというと受けが多いとか、そういう差異があるはずなので)

というわけで、ピッタリ平行線な完全コンビというのは、ボーイズには、あまり向きません。

もちろん、そういう組み合わせが好きな方もいると思います。ボーイズに向かないとしても、探せば0ではないと思います。
しかし『萌え』の基本は、やはり差異や落差に生じます。
同等の立場に置いても、二人の間に差異をつけるのが普通です。

たとえば体育会系と文系&理系の組み合わせにしてみるとか。
感情的なタイプと冷静沈着タイプにしてみるとか。
(ふたりの『質』に差異を与えてみた場合)

または。年下攻め、もしくは下克上、という嗜好があります。
年下攻めはご存じの通り、年下の方が攻。
下克上は立場が下の方が攻になる、というものです。

後輩が先輩を、という場合は、学生なら年下攻めにそのまま入りますが、社会人になると、歳が同じ、もしくは年上でも、部下や後輩になることがあるので、「下克上」という言葉が使用されます。
王道を立場的に、ひっくり返した形です。
(ふたりの『立ち位置』に差異を与えてみた、という所ですね)

この場合、差異を与えたのは立ち位置だけなので、年下や部下のほうが、身長も高いし体格もいい。
力も意志も強くて、より男らしいのが普通です。
社会的上位は受の方が上ですが、肉体的上位は、あいかわらず攻が握っています。
セックスや暴力になった場合、受は拒むことが出来ません。
私自身の萌えは、完全王道よりは、こちら側にあります。
肉体的には王道路線でも、少なくとも社会的には受が上位になる。
傾き加減が、時と場合で入れ替わるところが、私的にはナイスです。
昼は上司で、夜はえっちな恋人。
いい感じですね。

しかし、受にカッコイイ属性を強く求めると、このパターンでは少々物足りなくなることがあります。
どうして受にカッコイイ属性を求めるのか、自分でもその辺は解らないのですが、とにかく、男はカッコイイ中にカワイイがあるのが好みなのよ、と思っているので、受でも攻でも、カッコイイを求めてしまうらしい。
(カッコイイだけでも駄目なところが、好みの難しいところ。ひたすらカッコイイだけのキャラも、実は私はそれほど好みではなかったりします)

では正義の味方の受(黒羽 高)は、どういう感じかというと。

肉体、技術的には攻に守ってもらう必要は、本来は無し。
社会的にも自立しているので、攻に頼る必要なし。
むしろ肉体的には受のほうが上位。しかも年上。
じゃあ攻は立場弱いのか、というと、立場的には上司。
精神的にも上位。
傾き加減が、ごちゃごちゃと非常に細かく上下しております。
かなりうるさくて面倒くさい。
あまり万人受けはしないであろう嗜好だとは思われます。
(それでも、バッチリこれが好みだといってくださる方もいる訳なので、嬉しいです。同士の方もいらっしゃるわけですな♪)

更に、正義の味方の場合は、上司といっても、どーも社会的立場は受の方が強いっぽいので、この『上司』という立場が、常の状態では効果的に機能していない状態になってます。
じゃあ上司というセッティングは無駄なのか、というと、そういう訳ではありません。

つまり、一応上司なので、いざとなったら命令発動が可能なわけです。
肉体的にも社会的にも、一見何もかも上位に見える受が、攻の命令一発で止まったり動いたりする。
(もちろんいざという時だけね、という制限付きですが)
私としては、そういうのってかーなーり、『萌え萌え』なシチュなんですよ。

というわけで、香澄は上司。
常の状態では機能しないが、いざという時に発動可能。
気分はちょこっと猛獣使いでございます。

猛獣使いとか書きましたが、要は
「他の人には冷たいし傲慢だが、愛する人にだけは弱いし言うことを聞いてしまう」
というよく見るパターンですな。
しかし、よく見るパターンでは確かにあるのですが。 王道は
『他の人には冷たいし傲慢だが、「受」にだけは弱いし言うことを聞いてしまう』という路線です。
有能な攻にも、弱点(受のこと)はあるのよ〜、という辺りが萌えポイントです。攻に使われることが多いパターンなんですよな、実は。

正義の味方の黒羽は、それの逆バージョン、と見立てることも、まあできます。
しかしですね。受というのは、普通は属性として「弱い」ものであるので。
強い中に一つだけある弱点、という萌えポイントをつける人は、あまりいない様に思われます。

考えてみたら黒羽は、正義の味方世界では、最強キャラになっています。(笑)
冬馬涼一でさえ、銃では勝てないと明言している。
最強キャラが受ってどうよ、というところですが。
まあ通常、攻に割り振られる
「最強だが、弱い存在でもある」(精神的にどこか欠けているとか)
という立場を、受に割り振ったと言うところでしょう。
というわけで、あまり無いと言えば無いパターンなんですけど、すごく珍しいとか、突飛なセッティングというわけではありません。

むしろこの場合、珍しいのは香澄の方かもしれません。
香澄のキャラ自体は、別に普通の男だし、どこにもとりたてて珍しいところはないのですが、最強キャラの受に対応する、となると、あまり配置しないような気がしてまいりました。
だって普通は、やはりここは、精神的に支えてくれる「優しい攻」が置かれると思いますから。

しかし香澄は、不安定な黒羽を、きっちり精神的に支えてくれる様な大人ではない。
ここで大人を配置したら話は落ち着くわけですが。
メインが事件ものだし。
そして同時に香澄の変化を描いていく話でもあるので。
香澄は未熟な男になっています。

最初は守られているばかりだった香澄が、守る側にまわっていく。
カッコイイ男の子に、そしてカッコイイ男になっていく。

受攻や傾き加減が、時と場合で入れ替わるのが好みだ、と上に書きましたが、私はこういう、変化していく話、が好きなのかもしれません。
微妙に変化しながら、傾き具合も変わっていく。

しかし実は、何もかも流動的に設定してしまうと、それはそれで混乱の元なんですよね。
というわけで、けっして変わらない部分もあったりします。

私は本来はリバOKなのですが、黒羽は最強キャラであるがゆえに、完全に「受」になっています。
(最強で攻もやってしまったら、王道になっちゃうし)
香澄は普通の男なので、リバ可能ですが(最初は受けることも考えていた彼)
対の相手が完全「受」なので、香澄も完全「攻」になっています。
正義の味方では、この受攻の関係は崩さずに、立場や傾き加減だけ変化させていく予定です。

う〜む……。何だかダラダラと書いたわりには、自分語りのような所に、結局落ち着いている事をお許しください。(^_^;
もともと、自分の萌えの角度は何度くらいだろう、と探って行くのが目的で、もっと大きな「やおい論」や「BL分析」に発展させるつもりはなかったので。

でも、関係性の話は、色々考えていくと面白いです。
どこに自分がひっかかって「萌え」るのか。
この話自体は、史都玲沙の個人的な萌えの話になってますが。
でも、これを読んで、自分の好きな「関係性の角度」はどんな感じだろう、と考えるきっかけになるなら、なんか楽しそうかな、と思います。

今回は、関係性の傾き加減のいろいろ、という視点で考えてみました。
これからも他の様々な視点から、何度でも探って書いてみたいと思っています。

私はこれが好きなのよ、という同じ結論に、様々な角度からたどり着く。
それはさながら、エベレストに登頂するために幾つものルートを探っていくのに近い……。
とか、そんな立派なもんであるわけないですな。(笑)
でも、女の萌えって、細かく色々あるから。ルートを探っていくのは大切な気がするんですよ。
どーせ同じエベレストへ登るんじゃん。一緒じゃん。
ではなく。
行きつく先が同じでも、たどり着く人は違うし、ルートも色々あるんです。
そこが面白いんですよ、ええ。
私は、そんな風に思います。

END